【心に巣食う闇とともに】
人間はみんな、自分の人生を、生まれてから死ぬまでと考え、その時間の中で、いかに生きていくかを模索しています。
真剣に生きることを考え、人生とは何か、そして、自分とは何かをテーマに、絶えず、何かに挑戦している人もあるでしょう。
絶えず、自分にハードルを課して、そのハードルを飛び越えることを目標に、日々、前向きに、溌剌として、時を楽しく刻んでいく人もあります。
こういった人達は、一般的に言えば優等生です。
しかし、世の中は、そのような人達ばかりではありません。
もっと自堕落に、場当たり的に生活をしている人も結構多いし、おもしろおかしく、その時、その時を過ごしている人達も多いでしょう。
また、家族にも仕事にも恵まれず、何をやってもうまくいかず、まるで、坂道を転がるように、どこまでも落ちていく人生だってあります。その中には、同じ落ちるならば、自分だけではなくて、道連れを探す人もいます。
そういえば、自分の人生の転落に、人の人生をも巻き込んでいく人間が、昨今、際立って多いと思いませんか。
自分に社会に、そして、何もかもに嫌気が差し、どうせ破滅するならば、諸共にということでしょう。
そして、一思いに自分を消滅させたいと叫ぶのです。
また、一方では、そういう輩のあまりにも傍若無人というか、自己中心的な行動に、落ちるならば一人で落ちろ、死ぬならば一人で死ねと、口にこそ出さないけれど、人々の心は、一斉に、そう叫んでいるような感じです。
そのようなことを感じさせる事件が、最近、多くなっています。
今は、そんな時代です。人間の心の中に沸き起こるどす黒いエネルギーは、これから、ますますはっきりとその形を現してきます。
事故、事件、犯罪、あらゆる方向から、私達に提示されていきます。それは、誰も、自分の心の中の叫びを知らないからです。
人生に失望して、自暴自棄になる人達はもちろん、その人達の様子を外から眺めている人達も、自分の心の世界、意識の世界を思いやることがなければ、冷たい人間ばかりが、ウヨウヨいる社会になっていきます。
その心からどんどん攻撃、破壊、戦いのエネルギーが流れ出していくのです。
その結果、社会のあちらこちらから、色々な問題が噴き出してくるのです。そして、どのような場合においても、ただ、その対処に躍起になって、その問題の根本の解消に至らないから、ひとつの事が沈静すれば、またどこかで似たような現象が起きる、この繰り返しです。
今、このような社会情勢を背景にして、先行きの見えない不安感が、人々の心の中に大きくなっています。
その中で、何に喜びを、何に生きがいを、何に夢を持てばいいのか分からずに、刹那的に生きていく人も多いでしょう。
小説の世界に、ゲームの世界に、言うなれば、仮想現実の中に自分を埋没させたい思いが、人々の心の中に膨らんでいってもおかしくはないと思います。
現実逃避です。
お酒を飲んで、麻薬を吸って、現実の自分から目を背けていってしまうのです。
そうやって、現実か夢か分からない中を彷徨っていきます。
自分一人の世界に埋没している間は、まだいいでしょう。
そのうちに、その心の中に、すっと闇が入ってくるのです。
そして、自分の中の闇の声に、思いがどんどん向いていきます。
その声をどんどん聞いていくのです。
死ねと言ってくれば、自分を殺します。
殺せと聞こえてきたならば、見知らぬ人でも、いとも簡単に殺します。
もちろん、そこに至る事情は、外から見れば様々です。
生い立ち、境遇など色々な要素が絡まって、自殺をしたり、人を殺傷したりしてしまったということで、一応の説明が付くかもしれません。
しかし、そういうものは、ただ単なる条件であって、自分の中の闇の声に、肉体が従っていっただけのことです。
つまり、自分自身にすべての原因がありました。
しかし、それを知らずにきたから、ストップさせることができないのです。
みんな、本当のことを知らずに生きてきたからです。
闇の声とは、いったい何だと思いますか。
本人も、そして、周りの人達も、その闇の声の実体を知りません。
ただ操られているとか、何か得体の知れないものと思っているかもしれません。
狂っている。そう、それは、確かに狂っている意識です。
しかし、狂っていると言えば、本当のことを知らずに生きていることが、もうすでに狂っていることなのです。
そういえば、何か思い当たることがあるでしょう。
事件が発生して、犯人を捕まえてみれば、あんなおとなしそうな人が、何でこんな事件を起こしてしまったのか、信じられないと、皆さん、よく言うじゃないですか。
心の奥底に巣食うエネルギーを、しっかりと確認することを怠ってきた結果です。
火種は、すべての人の心の中にあります。
引火する条件さえ整えば、いつでも発火、そして、爆発するのです。
最近の事件は、そのことをはっきりと示しています。
だから、動機の解明はできません。
起こるべくして起こってくるということです。
心に巣食う闇とともに、また、あなたは奈落の底に落ちていきますか。
それとも、その闇の声を、しっかりと受け止めて、落ちていくことにブレーキをかけますか。
(塩川香世著『第二の人生 ー ラストチャンスです ー』より抜粋)